椋野美智子の研究室にようこそ

椋野美智子の研究室にようこそ。この部屋では、社会保障や地域と福祉について椋野美智子がかかわったこと、考えたことをお伝えしていきます。

2016/06/06

地域の支えあいをどうつくるかー国東市のくらしを考える勉強会


地域の支えあいがなぜ重要か
竹田津地区は人口1050人、高齢化率52.4%、上国崎地区は人口510人、高齢化率53.9%、いずれも過疎・高齢化が進む地区です。その住民による「くらしを考える勉強会」で講師をさせていただきました。勉強会は全7回、毎週ほぼ1回、仕事が終わった夜を中心に開催されます。私はその第2回で講義をしましたが、夜7時からの勉強会に竹田津地区は50名(5月19日)、上国埼地区は66名(5月25日)が参加しました。これはそれぞれ地区の人口の5%、13%に当たります。居眠りをする人もいないその熱心さに驚きました。
1回目の勉強会で講師をした市職員の資料によれば、両地区とも人口が減少する中、85歳以上の高齢者は増加しています。85歳以上になると入院医療、介護ニーズは増加します。けれども多くの人は自宅で暮らすことを希望しています。ただ5世帯に1世帯は一人暮らしになるのです。とすれば、財政的にも、人的にも、公的サービスだけで医療・介護が必要な高齢者を支えきれないことは明らかです。そこで地域の支え合いが重要になってくるわけです。1回目の勉強会のアンケートでは、参加者にも、高齢化の進展と支え合いの重要さが印象に残ったようでした。


仕組みづくりがなぜ必要か
支え合いの大切さはわかったけれど、自分たちにできるのだろうか、そんな疑問は当然です。1回目の参加者アンケートによれば、両地区とも地域で「してもらいたいこと」に挙げているのは「草刈り」「外出支援」「「サロン」などで、「あなたができること」に挙げているのは「草刈り」「外出支援」「話し相手」などでした。つまり、住民がしてもらいたいことを住民ができると答えているのです!
 実際、会場で参加者の方に「近所の人のためにしてあげていることはありませんか」と尋ねると「お惣菜を持っていく」「車に乗せてあげる」などの答えがありました。今でも個人的にいろいろしてあげているのです。ただ、そのときに困ることとしてよく他域で聞くのは「クルマに乗せてあげて、万一事故が起きたら困る」「誰にしてあげたらいいのかわからない」「してあげたいけれど、きっかけがない」ということです。一方、してもらう側としては「いつもしてもらうばかりで悪い」と思い、「何か謝礼をしなければ」、さらには「いつもいつもは頼めない」ということになりますし、また、「誰に頼んだらいいのかわからない」ということもあります。参加者の方もうなずいていました。

 これを解決するためには、「仕組み」をつくることが必要です。「できること」と「してもらいたいこと」がそれぞれあるので、それをつなげる仕組みです。また、例えば、自宅の一部を開放してお茶や料理を用意して個人でサロンを立ち上げるのは大変ですが、話し相手ができる人、料理ができる人は地区に何人もいましたから、そういう人をつなげて空いている場所を見つければサロンをつくることができます。つまり、できること、できる人同士をつなげる仕組みです。それから、気軽に頼めるように仕組みとして謝礼を決めること、万一事故が起きたときは個人ではなく仕組みで対応することなどにより、個人としての「してあげる」「してもらう」をもっとやりやすくすることができます。地域の支え合いが格段に進みます。


支えあい活動を進める上で大切なこと
実は、上国崎地区で行った、一人暮らしなど支援が必要と思われる高齢者世帯を対象とした調査で、「できること」として「料理」や「草取り」や「運転」が挙げられていました。支援が必要と思われる高齢者対象の調査で「できること」を尋ねるというセンスがいいですよね。支援が必要な人だって地域のためにできることは当然あります。
「支えてもらう人」と「支える人」が分かれているわけではありません。私は「支え合い」活動を進める上で大切にしたいこととして、「支えながら支えられる、支えられながら支える」ということを考えています。
よく使われる行政資料に、高齢者を若年世代が担いでいて、だんだん担ぎ手が少なくなるというものがあります。ここにあるのは、第1回の勉強会で国東市が使った説明資料ですが、なんだか担がれている高齢者も申し訳なくて辛そうです。

支援の必要な高齢者だって支えられるばかりではありません。視察に行った竹田市の活動団体「りんどう」で、足が悪いのでサロンまで車で連れて行ってもらってそこで食事づくりを手伝っている方がいたことを、竹田津地区の住民リーダーの方が印象深く語ってくれました。まさに「支えながら支えられる、支えられながら支える」です。
それに、支援が必要なのは高齢者ばかりではありません。若い世代にも、小さい子どものいる方、障害のある方など、地域の支えの必要な方はいらっしゃいます。でも、障害者も支えられるだけではありません。例えば担い手不足の農業で貴重な戦力になっている例もあります。
2回目の勉強会参加者アンケートでは、この「支えながら支えられる、支えられながら支える」が印象に残ったと答えている方が多かったです。言い換えれば、住民ひとりひとりが地域に「居場所」と「出番」をもてることです。安心できる「居場所」があることはとても大切ですが、同じぐらい「出番」があることも大切です。誰かのために何かができるということは、自信につながり、生きがいにつながり、プライドにつながるからです。


地域の支え合い活動だからできること
地域の支え合い活動を進める上でもう一つ大切にしたいことは、柔軟性です。最初からあまりきっちりと対象者を決めてしまわないこと、とりあえず始めて、やってみて問題が出たら改善すればいいのです。行政の制度づくりは予めきっちりと枠を決め、線を引きます。そうしないと悪用する人も出てくるからです。ただそうすると、必要なのに枠からこぼれる人もどうしても出てきます。顔の見えている地域住民の支え合いは、そんな枠をきっちりつくるための検討に時間をかけるより、とにかく始めてみること。合わないところが見えたら改善していけばいいのです。
そして、この「支えながら支えられる、支えられながら支えること」、「住民ひとりひとりが地域に『居場所』と『出番』をもてること」、「柔軟性」は公的サービスにはない、地域の支え合い活動の強みだと私は考えています。公的サービスが足りないから地域の支え合い活動が必要なことは否定できませんが、それだけではありません。公的サービスにはできないことが地域の支え合い活動にはできるのです。


今がチャンス
そして、今が地域の支え合い活動をつくるチャンスです。
今まで、介護認定を受けているかどうかで受けられるサービスには雲泥の差がありました。認定があれば、送迎バスでデイサービスに行けます。でも認定が受けられないと、サロンのような居場所も少ないし、あっても家族にクルマで連れて行ってもらわないとなりません。そして、地域の支え合い活動に使える財源はとても限られていました。それが今回の介護保険の改正で、介護保険の財源で地域の支え合いを支援することになりました。住民による地域の支え合い活動に介護保険を活用できるチャンスです。ただ、制度ですから枠があります。だからうまく活用することが必要です。制度の枠に住民の活動を当てはめるのではなく、住民の必要性や志を活かせるように制度を活用する、そんな調整役が必要になります。
私は、地域づくりには、やる気のある住民、地域のまとめ役、そして制度との調整役の三者が必要だと考えています。竹田津、上国崎の両地区では、やる気のある住民と地域のまとめ役は、勉強会への参加者の多さとその熱気をみれば保証付きです。勉強会には、市、市社会福祉協議会、さらには地区の市会議員も参加していました。市社会福祉協議会の職員はフットワーク軽く、先進地域や全国団体に情報収集に飛び歩き、人口500や1000の地区の勉強会とは思えない講師陣を揃え、資料を整え、アンケートをして住民の意見を見える化し、さらに勉強会の成果をその都度まとめて地区の全世帯にフィードバックしていました

共通基盤としての移動支援
勉強会は続いています。第3回、第4回は「私たちの生活が広がる」と題して、住民による移動支援について、実施している他県のNPO法人の方3人を呼んで、日曜日の午前10時から午後3時まで(第4回は4時まで)、みっちり勉強します。田植えの始まったこの時期に人口500人の上国崎地区では第3回に52人の住民が参加しましたから、大変なものです。
国東市のような地域では、「移動支援」は支え合い活動の共通基盤です。地域に居場所と出番をつくるには、住民の誰もが外出して活動に参加できるようにすることが必要であり、それには移動支援が不可欠だからです。
私は、第2回の勉強会の最後に、今後、移動支援を考える上で確認しておきたいことを4点挙げました。
まず、車椅子でなくても、公共交通があっても外出しにくい人が地域にはいるということです。外出し、人と会い、会話し、何かの活動に参加するというのは、介護予防にも必須です。でも、上国崎地区のひとり暮らしなど支援が必要と思われる高齢者世帯へのアンケートでは、毎日外出する人は45%、毎日会話する人も55%しかいませんでした。
つまり住民による移動支援の一番の目的は、新たに外出する人、外出する機会を増やすことです。今タクシーを利用している人に移行してもらうことではありません。 
そのためには、できるだけ利用のハードルを下げることが必要です。特別の人だけが利用できるようにすると、必要な人も利用しにくくなってしまいます。
移動支援がないために、返納したくても運転免許を返納できない高齢者がいて、最悪の場合には事故につながっていることを忘れてはならないでしょう。
両地区では、年内には活動を立ち上げようと考えているようです。スピード感は大切です。大分県社会福祉協議会が実施した地域の助け合い活動推進事業でも、10月から3月までの期間に研修から拠点づくりまで一気呵成に進めました。
大分県初の住民による移動支援の活動が国東市に立ち上がることを心から期待しています。